今日はすごくさむい日だから


(By山口圭介)


平馬が何やら言いふらしてくれたせいで、昨日―というか今日、俺はとんでもない目にあった。それはもう、俺が今までコツコツと積み重ねてきたイメージというものを総壊しにされてしまった気分である。平馬は有害なブルドーザーだ。しかしからかわれている中で、アレ、これって案外美味しいポジションないじゃないか?とか思ってしまった俺もいるわけで――おっと、俺はマゾヒストじゃないぞ。

酒はあまり、飲まなかった。というより、飲み慣れていない所為でちっとも飲めなくて。それでもあの場の雰囲気に酔ったのか、その夜の俺は妙にハイテンションだった。何時もは疎ましいマスクさえも今日は顔を防寒してくれる尊いものに思えたし、物騒な斧も軽く感じた。彼女に口付けを迫ったのは果たしてその所為か。彼女にとって、何でもない行為だったのかもしれないし、お互いの利害も一致していたから、だと思うが。なんだか女性からして貰うなんて、自身が情けなくて仕方がなかった。思えば俺は彼女にリードされてばかりである。といっても会ったのは、今日と前の2度だけれど。しかし、この事を謝罪するのも変だしさてはて、一体どうしたものか。

こんな事でいちいち悩んだりするから俺はいつまでも平馬に「ケースケって…」と罵られたりするのだろうか――まあ、とりあえず思ったのは。今度から俺も、背筋を伸ばして歩いてみようという事。彼女はいつも、そうやって前を見据えて歩く格好良い女性のようだから。


title:指先