瞳の話


猫と浮気とアルレッキーノ

title:回遊魚





……そんなに見られるとやり辛いんだけど。

最初に言っただろう、私のことはいないものとして扱って欲しいと。だからどうぞ、お構いなく。

世ノ一さんがそう言っても俺が居心地悪いんだよ。

Ja?なぜ。私ならばむしろ心地良く感じるのだが。

それは世ノ一さんが特殊だからだよ…あっ、もう世ノ一さんが話しかけてくるからりんごの皮ちぎれちゃったじゃん。ぶー。

フフ、私の視線ひとつできみの膨れた顔が見れるのならば、こういうのも悪くないな。

成る程きもちわるいじゃねーの…ハッ、まさか…俺のことを狙って…へ、へまきゅんのことを変な目で見ていいのは美和子ちゃんと賢者だけなんだからねっ!

 




世ノ一さんはご存知ですかあ?

何を。

人間の瞳孔は面白い、っていうお話ですう。

ああ、恋慕を抱く相手を見詰めると、瞳が大きくなるという話か。

ンフフ、ご存知でしたねえ。こういうお話ってー素敵じゃありませんかあ?恋の化学反応、みたいな。

ロマンチストだ、見かけによらずマキコは。

見かけってどういうことですかー、もう。

きみは彼といて、どうだい?それを実感するか。

さーあ。内緒ですよう。

 




きみはどうしたって私に瞳を合わせようとしないね。

そうまじまじと見詰められれば、誰だって物怖じしますよ…、今度は何を企んでいるんですか?

Nein!企んでなどいない、そう何も。

…本当に、本当ですか?

まるで信用されていないようだ。

まあとにかく、…世ノ一さんに限らず人間誰だって視線には弱いものですよ。面接の時は相手の眼でなく、襟元を見ろという指導があるくらいですから。

目と目で通じ合う時代は過ぎ去ったか。

 




逆に、ヅッコはいつだって私を正面から捉えるね。

話の流れが全く読めないぞ!どうしたんだい、世ノ一くん。何の脈略もなくそんな話を持ちだして。

きみとヤマスケはまるで真逆だと考えていただけ。彼、私の瞳を見ようとしないんだ。

それはいけない!人と話す時はちゃんと相手の目を見て!真摯に対応するべきだもの!私ちょっと山口くんに教育的指導をしてくるよ!!

そう言わず。ヤマスケの気持ちが分からない訳ではないんだ、私も。

えっ、世ノ一くんは目を逸らされるのが嫌だったんだろう?

ヤマスケは臆病。ヅッコと違って。だから仕方が無い。

 



お!世ノ一じゃねーか、何してんだこんな所で!

ユッチ、近い。

何だよー。前に近ければ近いほど興奮するとか言ってたのは誰だよー!

紛れも無く私、……あ。

そうだよお前以外の誰でもねーよ、ゲンミツに!…で、どうした?

私がいる。

ん?……あっ、お前の目ン玉にオレがうつってる!そりゃそっか、こんだけ近けりゃなー。

 



まぶたが重そうだ。

は?会って早々何そのイヤミ。こちとら無いまつげにいっしょーけんめー化粧塗りたくってンだよざけんな。

そう喧嘩腰にならずとも。

うっせー!つか、これでも前よか化粧薄くしたンですけど。この程度の変化もわかんないなんてマジださ。さげぽよ!

私が気付いた所で喜びなどしないくせに、くーたすは。誰がためにきみの瞳が存在するかなんて、私はわかりきっているのだから。

!!!

ああ、1つ忠告を。アイラインはもう少し薄いほうがいいだろう、もしものキスにそなえて……Auf Wiedersehen?

 




ベータカ、恋人と食事に行くとしよう。その時きみはどこに座る?

………隣。

Ja. どうやらきみは知っているようだ、正面よりも隣に腰掛けるほうが恋愛に置いては良いということを。

それがなんだってンだよ、からかいに来たならさっさと帰れよ。オレ田島みたいに暇じゃないんで。

どうしてだと思う、正面の方が互いの視線が絡み合うというのに。

無視かよ。

答えを探している。数値から叩き出された根拠や、恋愛の教則本に載っているようなものでなく、私が納得できるような。頼んだよ、ベータカ。

 




(世ノ一は人の目をガン見してお話するよ、という話。パーソナルスペースの存在しない女。)