この星の夢に生きる
(By田島悠一郎)
大好きが沢山ある場所だった!カコケーにしちまったけれど、ホントのホントはゲンザイシンコーケーで、ミライケーでもある。だって大好きじゃなくなる理由がどこにあるんだろう、オレにとって、ここは第二の故郷なのだ。下宿先の人にお世話になりました!って頭を下げると、そこの母ちゃんと父ちゃんはちょっと涙ぐんでいた。だからオレはすかさず言ってやったのだ、そこの家の父ちゃんに、男が人生のうちで泣いていいのは、産まれた時と、母ちゃんを失った時と、あともう1回だけで、3回しか無いんだって。ここで一回を使っちゃうのは勿体無いだろ、ってオレはちょっと怒って、そのあとでオレのもう1回を父ちゃんにあげることにした。――そうやって、オレも大事な親友に分けて貰ったから。オレよりオトナなのに、ビビリでヘタレで、のんびりやで、お人好しの、世界にたった一人だけの存在に貰った1回分が余計に残っているから。だってあの日、オレ泣いてなんていないもんな、 !オレはお前がオレ無しでやってっけっか、ちょっとシンパイだ。――嘘だ、本当はオレが寂しいだけなのかもしれない。ちょっと悔しい。
土手を歩いていると、不意に の家にお泊りしたこと、 とここでまたなの挨拶をしたこと、 に海で意地悪をしたこと、 と屋上で友情を誓い合ったことを思い出した。あいつら4人はオレの少し特別な友達だ。1人はいつもむっつりしててちょっとしたことですぐ怒る、顔だけは綺麗な男。もう1人は元気のかたまりみたいな奴で、いきなしとんでもないことをしでかすよーな女。もう1人はいつも気丈に振舞ってるけどホントはちょっと怖がりで、でも頑張り屋な女。最後の1人はのんびりしてっけど、いつも笑ってて話しているとあったかい気持ちになれる男。全員ヒトリミだけど、オレは恋愛だけが全てじゃないと思ってっから、またいつか帰ってきた時にあいつらが笑顔でいたならそれでいーや。口笛を吹くと、冷たい冬の空気を肺に吸い込んじまった。ちょっと噎せた。
新幹線が停まる駅までの切符を買って、印字された黒をまじまじと見詰める。あいつはどんな気持ちでここを去ったのかな――と。他とはちょっと違う変な気持ちを抱かせた、 。最後に会ったのはタブン、11月の半ば頃。あいつの誕生日を祝った時。元気にしてっか、一人で泣いたりしていないかが本当に心配だ。こーいうのをカホゴとかって言うんだろうけれど、心配なものは仕方が無いのだ。ぐるぐるに巻いたマフラーに顔を埋めて思い起こすのはあいつの、色んな表情。笑った顔、ちょっと怒った顔、焦った顔、照れた顔――どの顔も鮮明に思い出せるのはきっと、オレの記憶力がいいから。――今は、そう思っておこう。ふうっと一息吐いたなら、改札口に切符を思い切り押し込んだ。勢い良くいれたせいで、抜ける時に危うく切符を取り忘れるところだったというのはここだけの話だ。ちょっとダサい。
笑って、笑って、笑い抜いた、この数カ月。オレはきっと、ここにまた戻ってくる。見通しをつけるのが苦手なオレにもそれだけは確かに分かるんだ。なァ、待っていてくれるよな?ちゃんとおかえりって、言ってくれよ。勝手にさせてくれな、約束だ。
(行ってきます、ゲンミツに!)